2021/03/21

今朝、ふたつは暴走していて、一瞬手に負えなかった。天気が悪かったからかもしれない。落ち着けるようになるべく穏やかに声をかけたり、抱っこしてみたりしたけど、あまり意味はなかった。そのあとわたしが台所に立って、洗いものをしながら小豆を煮ていると、ふたつはそっと足元にすり寄ってきた。ルームシューズの甲に顔をすりつけたまま、半回転するみたいに仰向けにごろんとなる。

わたしはさっき、どうしてこの子を愛さなかったのかと思った。こんなに愛させてくれる子はいないのに。窓越しに響くはげしい雨の音を耳に入れながら、わたしはしゃがみこんで、ふたつの耳やおでこやお腹や口元を撫でまわす。背中を預けた開き扉が冷たい。厚い雲が陽射しを遮る、うす暗い台所で、ふたつの目は真実のように光り、わたしが撫でるたびその目を閉じる。

しばらくそうしていると、ふたつは離れていった。洗いものを再開しようと立ち上がると、ぴんと尻尾を立てて、すぐに戻ってくる。それでわたしはまたしゃがみこんで、その身体に触れる。数分そうしていると離れ、わたしが立ち上がるとまた戻ってくる、その繰り返し。けれど瞬間がやって来る。わたしたちの両手は片手ずつに異なるものを繋ぎ止めるためではなく、片手では落っことしてしまう大切なものを両手で抱きとめるためにあるのだと思う。「ここ」にあるとき、「あそこ」にはなく、「あそこ」にあるとき、「ここ」にはない。人は瞬間の連なりの最中を生きている。

わかってもらえるかもしれない、と思うことについて考える。愛すれば伝わる、愛すればわかってくれる、と思うのは結局のところ愛を利用し、あなたをわたしの手中に収めることでしかない。
おとなしくなる必要などなくて、物わかりが良くなる必要などなく、かわいい子になる必要などない。わたしの役割はあなたを愛することで、あなたが一日の中で感じる寂しさをひとつでも減らすこと、あなたが一日の中で穏やかにいられる瞬間を一分でも多く保つこと、ふて寝ではなくまどろむ昼寝のような眠りをあなたから奪わないこと、と。