考えごとをしていて、部屋の明かりを落として横になったとき、すでに明けかけている外がブランデーみたいな色をしていることに気がついて驚いた。台風がくる日だ。むかし、台風がくる日はきまって空を眺めにベランダへ出たのを思い出した。あの土地は地形的にあまり台風の被害を受けないから、こどものころは、台風はちょっとした楽しみのようなものだった。災害の報道を見ていても、悲惨だとは感じられてもどこか他人ごとで、大雨や暴風がほんとうに怖くなったのは、車の運転をしたり、川や海の近くに住んでからのことだ。他人の痛みというのがほんとうにわかるようになるのか、いまだにわからない。台風がくるせいか、ここしばらくではめずらしく冷えた朝で、ふたつがブランケットのなかへ潜りこんできた。ふとももが暖かくて、すぐに眠った。
目がさめてうつ伏せになり前を向くと、吾輩がのんびり横になっていた。朝起きて愛しいものの姿があるとうれしい。