家族が食材を冷蔵庫にしまっているとき、わたしの脚に身体をぺたっとくっつけてきた吾輩を抱っこして、手近な椅子に座る。野菜室がひらく。いつもとは違う視点からそれを眺める吾輩が、目を丸くしている。わたしはきのう見返したばかりの写真たちのなかにいた、生後三、四ヶ月ごろの吾輩の顔を思い出していた。野菜室が閉じられ、冷蔵部のメイン扉がひらいてこちらへ迫ってくる。吾輩の目はますます丸く、黒目が大きくなる。幼いころの吾輩にそっくりだった。こんな景色と距離感は彼女にとってはじめてなのだと気がついて、都市に建つ古いビルの狭い一室にも、つねに新しさが生じることを知る。