午前二時すぎ、レリーフが美しいノリタケのカップで、ティーバッグのほうじ茶を飲んでいる。ホテルは人の気配に愛を見出してやまない人嫌いに親切なつくりをしている。フロントは七十七番。番号の突起に置いた指先にもしわずかに力をこめて受話器をあげたなら、誰かの声が聞こえる、なにか言えばそれで誰かにわたしの声が聞こえる、わたしの夜中で誰かの輪郭に会う。掛けるあてがなくても、掛けるつもりなどなくても、電話機がここにあるだけでよかった。かつての姿をいつでも簡単にとり戻すような静かな横浜港を見下ろしている。二十四時間に境目はない。人びとの去った山下公園で、木々が街灯とともに風を受けて漕いでいる。