暑くて眠れなかったが、夜中に暖房を切ってからはすぐに寝ついたようで、6時に起きた。二度寝して8時。やけに順応しているなと思ったが、5時間の時差というのはつまり、出国前の生活リズムとほぼ同じなのだった。チェックアウトは12時だからその前に身軽に街を歩いておこう、余裕だろ、と思っていたが、案の定だらだらと過ごし、ぎりぎりになって宿を出た。
今日からぐっと寒くなり、この時期のヨーロッパらしい頬の冷たさが気持ちよかった。昨夜よりは人の少ない、けれどまだまだ浮ついた通りを歩き、Sfatului広場へ出る。電灯は曇りによく映える。曇った昼間のメリーゴーランドはすてきだった。旧市街をうろつき、パパナシを食べにいく。
パパナシの提供に20分かかるといわれ、列車の時間との戦いがはじまる。なにもかも宿を出るのが遅かったのが悪いといえばそれはそう。たしかにほぼ20分ちょうどで出てきたパパナシは、どう見てもひとつでいいボリュームのものがふたつ乗って一人前だった。おいしいのは間違いないのだがやはり量が多いし、とにかく時間がなく、最後にはフラットホワイトで流しこんだ。こういうときにはいつも日本のレジ会計システムを恋しく思う。
小雨のなかをバス停まで小走りで向かう。昨日のようにバスが一本飛んでしまったらおしまいだったのだが、無事にやってきたバスに乗りこんだら、かなり余裕をもってブラショフ駅に着いた。駅舎をぼんやり眺めて列車を待つ。
14時42分ブラショフ発、ブカレストへ戻る。ブラショフを出るとまもなく森が連なり、路線そばの地面に雪が残っている。いぬ。にわとり。ルーマニアは今まで行ったどこの国よりカルフールが多いように思うが、まあ実際にはフランス国内が最多なのだろう。ところで行きと同じくまた座席を間違えていたらしく、CFRの車両と座席の確認方法がぜんぜんわからない。移った先でおじさんがにこやかに迎え入れてくれたが、彼も席を間違えていることがあとになって発覚した。
昨夜、ブラショフに着いて出国後ようやくはじめての宿に入り、Sergianaで食事を終えるころには、もう成田か、せめてイスタンブールに帰ってもいいと思った。なにせ疲れていたので。また夜行と夜行を乗り継ぐなんて信じられないと言った、そういう行程を作ったのはもちろん自分たちなのだが。でも、昨日と今日で人間はおなじではない。満員の車両でリュックをひざに抱えながら、暮れてゆく霧の濃い景色を眺めていると、もう、ぜんぜん平気だった。昨日と今日はおなじではないので。
車両を若い声が渡る。短い動画が何度も繰りかえされる。若者たちが小さな画面をのぞきこんでいる光景がそちらを見ずともわかるようだった。手のひらの中から何度もおなじ叫び声が上がる。何度も笑う若い声。目を閉じて、読めない文字を見るように会話を聞いている。
18時すぎにブカレストに着く。もうすっかり暗かったので、早足でメトロに潜り、Piața Uniriiまで。旧市街をぶらついて、食事をし、メトロでPăciiのバスターミナルへ。みんな大好きFlixbusに乗りこむ。