追いかけっこで窮地に立ったふたつが、あわててテーブルへ飛び降りた拍子にマグカップがずれ落ちて割れた。文字に起こしたように響くパリンという音を、もう長らく聞いていなかった。割れたかもと考えるより早く割れたことを知る。あなたのカップは割れてしまったよと誰かの言葉で知れば、悲しみや怒りを通過するまでにいくらかの時間を要するはずなのに、音は感情をプロセスごと割るように素早く、カップの落ちた先に目をやるころにはもう、ああ割れた、という透明な事実だけが胸にあった。ねこたちは追いかけっこをぴたりとやめて、片づけをする姿をちょっと遠まきに、ちょっとどきどきした目で見ていた。大丈夫だよと声をかける。びっくりしたね。けががなくてよかった。本当にそう思った。わたしの内側にあると知らなかったものの存在は、ねこたちを伝うことでわたしにも見えるようになる。いつも。