出かけるまでまだ時間があり、すこし眠たくてソファに寝転がったら、ふたつがいそいそと追いかけてきた。膝にかけた上着の中に入りこもうとするのだがスペースが足りず、むりやり入ってみたものの居心地がわるそうに出ていった。かと思いきやまた潜りこんできて、今度は横向きになったわたしのおなかの空白に丸まる。そのぬくもりにそそのかされて一時間ほど眠ったらしく、起きてもまだふたつはそこにいて、そのからだがソファから落ちてしまわないように覆っていたわたしの手のひらに四本の足がくっついていた。やわらかく、ちょっと乾いた肉球。抱きしめたかったけど、動けばふたつは起きてしまうから、じっと幸福に耐えていた。
長いエスカレーターで、帰りがけらしい親子の声が聞こえる。いや、聞こえるのは親の声だけで、こどもの声はなかった。そんなことするんだったらもうどこにも行けないよ、その年齢ならもうこんなふうにできないといけないよ、云々。早口でまくしたてる。罪悪感の育成。それがこどもを立派で無害な、あるいは一人前の、あるいは人並みの人間に仕上げる条件ならばたまらない。夕方に向かう電車内で、見上げると網棚に空いたいくつもの丸い穴。通気、光の落ちる穴。