ワガハイ怒りの鉄拳

吾輩は朝から怒っていた。しかめっ面ならぬしかめっ声というか、わたしは理不尽なまでにキレられているのだが、吾輩はどうやら急に寒くなったことに怒っているらしい。
彼女はあたたかいのが好きで、少々気温が高くてもいつも気持ちよさそうにしている。例年、秋になって一度でも暖房をつけようものなら、次の日にはいくらかあたたかくてもスイッチの切れた暖房の前に座りこんでこちらを睨んでくるくらいだった。

暑さの続いた8月、お盆に入って急に気温が下がり、吾輩は怒っている。寒いじゃないかと。なぜ突然こんなに寒いのか。昨日までは暑くていい感じだったのにと。
そうだね、これは急だね、と言いつつ、ベッドの上にふとんを広げてめくってあげると、仕方ないなと言わんばかりに速攻で潜っていく。そして、よかったよかった、と思っているわたしの横をふたつが駆け抜けて、ふとんに突進していった。

暑がりのふたつには、なにもかも意味がよくわからなかったらしい。
もともと、わたしは吾輩とのあいだでは言葉が通じているのを感じるけれども、ふたつとはお互い完全に異言語を使っている、というかふたつはそんなことを考えてもいないくらいの様子で、言葉に偏って意思疎通をはかるべきねこではないことをこの一年でよく理解した。
なんなら同じねこである吾輩ともあんまり意思疎通ができているふうはない。ガンガンつっこんで怒られて、でもまた懐へ入っていく。たまにグルーミングしてもらえる。

いままさに、吾輩が潜ったばかりのふとんに突進して上からチョイチョイと叩きまわり、安寧の妨害から脱出した吾輩に怒られている。追いかけっこがはじまる。
なす術なくその光景を見ているわたしとしては、あの死ぬほど暑い日にわざわざ冷房のついていない部屋に行ってふたりでくっっいて寝ていたのはなんだったんだ、こういう寒い日こそくっついて寝ればちょうどいいのでは……と思うのだが、そういうのが人間の浅はかな考えで、寒すぎて怒っている吾輩と、涼しくなって超元気なふたつにはくだらない考えなのだ、たぶんそういうことなんだろう。そうなんでしょうか。