午前四時五十五分、昨夜のうちに借りて停めていたレンタカーのエンジンをかける。ほの明るい駅前、起きたての電車が走る高架をくぐる。首都高、羽田線。湾岸線を通って東北道へ。もう九時くらいの気分で、実際にはまだ五時台だった。蓮田SAでおかかのおにぎりと、マスタードチキンのサンドイッチ、エクセルシオールのカフェラテ。絵に描いたような夏の畦道。八時半すぎに着いて、目的地の旅館山快を通りすぎ、営業前にドライブする。殺生石、恋人たちのなんとか、つつじの吊り橋。この先の人生で一度だって必要になることはない写真を撮る。
帰りの夕方、首都高からいくつもの扉と窓を眺める。入口あるいは出口。狭い一室の群れ。自分にとって都合がいいとき、いちばん近くに人を感じている。