ねこがごはんを食べはじめると、お皿の上でドライフードが転がる音、拾いあげたそれを噛みくだく音がする。ふたつの音は速く、吾輩のそれはゆっくり進む。ふたつは、食べているところを跨いでも気にせず食べ続けるが、吾輩は物音などで食べるのを切り上げてしまうことも多いので、わたしはその音が聞こえているあいだじっとしている。お茶を淹れにいくのを、ごみを捨てるのを、耳かきを取りにいくのを、ノートパソコンを閉じるのを、すべて後回しにする。耳をそばだてている。ねこたちの時間の流れをさえぎらずにいようとするとき、いちばんきれいな時間を感じる。