2023/11/30

吾輩にいってくるねと言う。コミュニケーションが成立するからつらくなるのだなと思う。これが共感だというなら、今日の共感はずいぶん遠くへ来た。

きのう取ったばかりの航空券。謎に包まれた四川航空。オンラインチェックインのシステムがないのでめずらしく四時間も前に空港に着いて待機していたが、カウンターを間違えるという初歩的なミスで遅れをとった。チェックイン中、ほがらかな職員の表情がどんどん険しくなり、ブッキングができていない可能性をまっさきに考えた。となり席の同僚に尋ね、二人がかりになり、上司に声をかけて三人がかりになり、全員が険しい顔をする。中国語が早口で交わされて、頭をひねりつつキーボードを打ちまくるが表情は全員どんどん暗くなる。上司がさらなる上司を呼びに行く。それを待つ間、ほがらかな職員は一晩煮込んだ大根みたいにくたくたな表情で、成都からイスタンブールへの便のチケットがなぜか発行できないのだということを教えてくれた。あのうすみません予約がなくて……という事態を想定して諸々のキャンセル手続きのことまで考えはじめていたこちらとしては、その深刻さがまったくわからない。のんびり待つ。

さらなる上司が大股の早足で駆けてくる。さっきの中国語とは比べものにならないほどの早口な日本語で席を強奪し四人がかりになる。それでもなかなかうまくいかず、いったん離席して走って帰ってきたと思ったら、プログラムのエラー文字列のようなものがびっしり書かれた薄紙を持っている。勉強になります!といわんばかりに後ろから覗きこむ職員が増え、五人がかりでチケットを吐き出すのに必死になっている。システムってたいへん。ずっと見ていられそうな光景だったが、その後この上司が十分くらいかけて解決した。

謎とは未知ということで、未知とは単に知らないということだ。四川航空の機内はちょうどいいエコノミー感に満ちていた。食事はどれもやや辛かったが、CAさんが真っ赤なソースの入った瓶とスプーンを手に通路を練り歩いているので、わたしが食べているこれはまだ辛い食べものとは呼べないんだなと思った。お茶の品揃えがよく、白湯も出る。機内食のボックスにはじめからでっかいパンが入っているのに、さらに別のでっかいパンをトングで配る。パンいりますか、はい、ではトングで取ります、ではなく、トングで挟んだパンを食事中の乗客の顔の前に突き出し、このパンいりますか、という流れ。もらった。

成都の空港はたぶん数年前に利用したことがある。おそらくブダペスト行きで、給油のためだったか一度降ろされて、降ろされたその場で我々には突然でっかい花束が贈られた。国際線就航記念だかなんだかで、地上の関係者たちはニコニコしている。先頭にいた男性が代表して受け取らざるを得ず、どうしたらええんや、と花束の処理に困惑したままそれを抱えてトランジット列に並んでいた。いや、トランジットはしてないか。なんの列だったのだろう。なんにせよ、それが成都だったように思う。

もう四年くらいは経っているはずだから国際ターミナルにも活気が出たかと思いきや、Transferの案内に沿っていくとなぜか入国審査になり、職員に尋ねてもウーン……と首をかしげ、すでに発券されているイスタンブール行きのチケットを見ながら、ホテルは? えっこれ今日のフライトなの? と言う。じゃああっちに戻って、と戻らされた先は機械のひとつもない小さなカウンターで、たしかにInternational Transferと書いてはいる。が、いったいどうなってんだ、という顔をした人たちが二十人くらいいるばかりで、職員はひとりもおらず、進行方向と思われる通路はベルトパーテーションが阻んでいる。

結局、徒歩五分くらいの距離にある乗り継ぎターミナルにたどり着いたのは約二時間後だった。どうやら二、三ある乗り継ぎ便の乗客は各発着地ごとに紙のリスト(!)で管理されており、行っていいと言われて進んだパスポートコンロールではなぜかパスポートをコントロールしてくれず戻る場所も待つ場所もないので窓口の前にひたすら人が溜まっていく。例の紙リストが一向に仕上がらないのが原因だとわかるまでにも一時間くらい待った。きっと誰もが二度と来てたまるかと思っただろうが、一週間後にはまたここに来る。