「生誕110年 香月泰男展」神奈川県立近代美術館・葉山館

香月泰男展へ。最終日まで予定を延ばしに延ばし、寒い朝になんとか起きて出かけていった。もう先月のことになる。途切れ途切れに考えていたけれども、そろそろリミットなので記録だけしておく。

香月泰男の作品を直に観たことはなく、この日がはじめて。その後も予定があったので、駆け足に観るつもりで入った会場のすぐ正面に書かれている香月泰男の言葉にしばらく立ち止まる。あ、これは無理だなと思う。予定に遅れることを腹に決めて、ゆっくり観てまわった。

『兎』、『電車の中の手』『尾花』は特に好みで、印象に残る。香月泰男は石に惹かれていたという。石の肌を描ければ油絵の肌が描けるんだというような言葉もあった。石を描いた作品以外でも、絵そのものの面が石っぽくできており、それが不思議で、ラインぎりぎりまで近づいて画面をみる。
シベリア・シリーズは一部を写真で見たことがあった。実物は強烈で雄弁で、これだけを物語る技術(感性を絵へ変換し、画を経て面へ落とし込むこと)が培われてきた時代と、その地盤の上で発出することができる「シベリヤ」のことを思う。

言えることのないものに遭遇すると、とたんに非力な気持ちになり、そして安堵する。言語化できないことは、言語化できることよりもときどき重要だと思う。

もちろん予定を大幅にすぎ、図録を買おうとしたが、そう、神奈川県立近代美術館・葉山館では図録の購入は現金のみ可能です(戒め)。この日の前日かその前くらいに、「どこかのミュージアムショップは現金しか使えなかった、どこだったかな」みたいな話をしていたばかりで、ここか!と思った。

現金の持ち合わせがないでおなじみのわたしなので、しかたなく美術館を出る……前に訊ねてみる。明日からはもう図録の取り扱いはなく、今後は巡回先でしか買えないらしい。巡回先は練馬区立美術館なので、まあ行けるっちゃ行けるが、あとになって今と同じ気持ちで図録が買えるかどうかはわからない。いったん美術館を出て、いちばん近くのコンビニまで行く。

キャッシュカードを携帯しないでおなじみのわたしなので、たまたま、唯一、財布に入っていたキャッシュカードを賭けのつもりでATMへ入れてみる。天の神様の言うとおり。残高3,074円。美術館へとんぼ帰りして、図録を購入した。もはや遅れるというレベルでもない次の予定へ急いだもののすっかり渋滞で、暮れていく海を車中からのんびり見ていた。